かけ算の順序を逆にするのは間違いなのか?

掛け算の順序を逆にするのは間違いなのかどうかが気になって、小学校の教科書を買った。

f:id:kusano_k:20191203001119j:plain:w640

通販で買えるところを教えてくれたkistenkasten723さんありがとうございます。

1年生から6年生まで。 5年生までは上下巻に分かれていて、計11冊、合計3,637円+送料750円。 小学生の教科書なんて薄っぺらいでしょと舐めていると、11冊ともなるとけっこう重いし場所も取るので注意。

1年以上前にTwitterで燃えていたときに買って、そのまま忘れてた。

かけ算の順序とは?

例えば

3個のリンゴが乗った皿が4皿あります。リンゴは全部で何個あるでしょう?

という問題に対して、

(しき)4×3=12

(こたえ)12個

とテストの答案に書くと、「こたえ」は丸だけど、「しき」がバツになって点数が引かれることがあるらしい。 「1つ分の数 × いくつ分 = 全部の数」の順番で書かなければならず、逆はまかりならん、という理屈。

定期的にネットで燃えている。 論点としては以下のような感じ。

  • 教師は交換法則も知らんのか
  • 学習指導要領でそう決まっている(ホントに?)ので教師ではなく文部科学省が悪い
  • 海外だと被乗数と乗数が逆だぞ
  • 文章の意味を理解せずに答える生徒を見つけるためである
  • そんなのは文章に他の数字を入れたり、足し算の問題を混ぜたりすれば良い
  • 問題に冗長性があるのは美しくないのでは

最後は私が今考えた。

私としては、理不尽にバツが付いたら小学生はブチ切れるだろうし、かといってこの記事の以降のような話を小学生にしても伝わる気がしないし、(たとえ本当は間違いだとしても)丸にしておけばいいんじゃねーの、と思うが……。 まあ、教育とはどうあるべきかとか、小学校のテストで丸にするべきかどうかにはたいして興味はない。 「(しき)4×3=12」が正しいのかどうかだけが気になる。

教科書の公理系

「算数」がどうなのかは知らないけれど、そもそも数学というのは答えが絶対的に一意に決まるものではない。

「最小の自然数は何か?」という問題で、「0」が答えになることもあるし、「1」が答えになることもある。 自然数の定義には、「正の整数」と「非負整数」があるので。 実数の範囲でという前提があれば、 x2+1 を因数分解した結果は x2+1 だけれど、虚数も含めれば (x+i)(x-i) が答えになる。 2個の頂点の角度が30度と60度の三角形の残りの1個の頂点の角度が90度になるのはユークリッド幾何学であって、非ユークリッド幾何学では他の角度にもなりうる。

いくつかの公理が成り立つと仮定した上で、どのような定理が成り立つのか、ということを考えるのが数学である。

よって立つものが何も無いまま正しいとか間違っているとか言ったところで「お前の中ではそうなんだろう」で話が終わってしまうので、小学校のテストならば教科書に書かれていることを前提として考えるべきでしょう。 ということで教科書を買った。 買ったのは東京書籍の教科書なので、以降の話は東京書籍の教科書の世界の話であって、他の出版社の教科書ならまた違ってくるかもしれない。

掛け算の順序

f:id:kusano_k:20191203001530j:plain:w640
新編 新しい算数 2下 6ページ

「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」という定義である。 被乗数と乗数を逆にした定義は書かれていない。

被乗数と乗数を逆にした式から正しい図を選ばせる問題もある。 東京出版の教科書的には順番に意味があるらしい。 「いくつ分×1つ分の数 でも良いよね」となるとこの問題が成り立たない。

f:id:kusano_k:20191203001656j:plain:w640
新編 新しい算数 2下 12ページ

ちなみに、長方形の面積は、隣り合った2辺の積、縦×横、横×縦と書かれているので、順番はどちらでも良い。

f:id:kusano_k:20191203013657j:plain:w640
新編 新しい算数 4下 17ページ

あとは交換法則がどうなっているか。

f:id:kusano_k:20191203002016j:plain:w640
新編 新しい算数 2下 41ページ

かけられる数と かける数を 入れかえて 計算しても,答えは 同じに なります。

答えが同じになるとまでしか言っていない。 意味が同じではない。 この文章でここまでに出てきた掛け算の定義に「いくつ分×1つ分の数=ぜんぶの数」を追加するのは無理があるでしょう。

「3×4=4×3=12」という話なので、式に「4×3=12」がありなら、「12=12」もありになってしまう。

「しき」とは何なのか

「4×3=12」や「12=12」はダメなのか? そういえば、「しき」には何を書くのが分からない。

「しき」に点数が付くのは小学校(中学校も?)でしか見ない。 大学の試験でも計算過程を書くけれど、これは「最終的な答えが間違っていても途中まではあっていたら部分点をよこせ」ということであって、答えさえ合っているなら答えだけを答案用紙に書いても単位はもらえるはずである。

「しき」とは何なのか。 何かしらの途中経過が書いてあれば良いのではないのか。 それなら「4×3=12」でも丸になる。

ということで「しき」の初出を探してみる。

f:id:kusano_k:20191203001354j:plain:w640
新編 あたらしい さんすう 1上 さんすう だいすき! 39ページ

「しき」について、定義も、解説も、何を書けば点数がもらえるのかも、何も書いてねぇ……。 最初の掛け算の定義のところにも「しき」と書かれているけれど、これ以外の「しき」が不正解かどうかは分からん。

まとめ

  • 「1つ分の数×いくつ分」の計算についてはこの順番でしか定義されていない
    • 交換法則も答えが等しいとまでしか言っていないので、「しき」で逆にしてはダメ……?
    • ただし、長方形の面積は縦と横の順番を逆にしたものも定義されているので、どちらでも良い
  • でも、「しき」がそもそも何なのかが分からないので、何とも言えない

教科書は「しき」が何なのか解説してほしい。 あとは、長方形のように「1つ分の数×いくつ分」も逆にしたものも定義してくれれば、ネットは平和になるし、先生も堂々と丸にできて生徒がニッコリなのに(文章を読まない生徒をどうするか問題はあるけれど)。