綾瀬FMC2023反省会

speedcubing.or.jp

FMC(Fewest Move Challenge)という、(ルービック)キューブを速く解くのではなく、短い手数で解くという大会に参加してきた。

それ面白いの? と思うかもしれない。 綾瀬FMC2023の開催が告知された1か月前の時点で、私はそう思っていた。 取り組んでみると、これがなかなか面白い。 運と実力のゲームバランスが良い。 当然、手法を身に付け正確に実行できるようになるにつれて記録は縮むのだけど、各ステップで数回に1回ラッキーが引ける。 射幸心が煽られる。

どのようにして短い手数で解くのか気になる人は、以下のページにまとめたので見てほしい。

FMC

CFOPでOLLもPLLも1 lookで解くと、60手くらいらしい。 ルービックキューブの各状態の真の最短手数は中央値が18手。

www.cube20.org

2023年現在の世界記録は16手。 これは、スクランブルの最短手数が16手という数%のラッキーを引いた上で、そのスクランブルに存在する唯一の最短解を1時間以内に人力で見つけ出している。

kawam1123.github.io

最短解を出せるのは、今のところは本当にトップ層の人だけ。 しかし、ここ数年でも新たな手法が生み出されている。 数年後には、誰でも最短手数が出せるような手法が開発され、ルールが変わったりするかもしれない。 FMCで遊ぶなら今のうち。

そう、最近でも新しい手法が出ている。 今の技術なら、すごく頭が良かったり、指の動きが速かったり、人生を賭けて何年も練習し続けたりしなくても、30手は目指せるラインだと思っている。 平均30手って今の日本の国内ランキングだと15位である。 「新しい手法を勉強したら、未経験からでも良い線いけるんじゃね?」というのが参加した動機の一つである。

まあ、世の中そんなに甘くはなかった。反省。

結果は、第1試技: DNF、第2試技: 39手、第3試技: 33手、平均: DNF。

DNFは、Did Not Finishの略で、要は「あなたの提出した解答は間違い。それではキューブは揃いませんよ」ということ。

まあ、でも、そんなに甘くないとはいえ、World Cube Association公式サイトに100位以内で名前を残したいというなら、普通の速解きよりははるかに狙い目だと思う。

大会の様子

実際どんな感じか分からないので、申し込むときはちょっとビビっていた。

素人お断りのような雰囲気は全く無かったので、ビビる必要は無い。 むしろ、運営の人は門戸を広げようとしている。

キューブの大会は、前回の普通の3x3x3速解きの東京チャレンジ VIII 2023が初めてだった。 今回の綾瀬FMC2023の申込みはこの大会の前。 「キューブの大会に初参加みたいだけど、これ3x3x3速解きじゃないからね? 間違ってないよね?」と心配のメールも届いた。 ありがたい気配り。

(DNFを出した自分に言い聞かせているような気がしてくるが……)実力者でもDNFを出しているので、DNFだからといって恥ずかしがることはないだろう。 ただ、解答用紙のマスは80個であり、80手より長い解答は無効となる。 80手でキューブを解けないのに参加するととても悲しいことになる。

あと、3x3x3の速解きだと、「初めての人は集まってください。タイマーの使い方を説明します。練習で1回やってみましょう」という初心者向け講習会があったが、そういうのは無かった。 そりゃ、解答の書き方とか、一から説明する時間は無いだろうしな。 解答用紙に簡易的に書いてあるとはいえ、ルールはちゃんと事前に把握しておく必要がある。

あと、持ち物に時計は必要(かもしれない)。 今回はスクリーンに残り時間が写されていたけど、競技のレギュレーションで定められいるわけではないので、大会によっては無いかもしれない。 普段はApple Watchを使っていて、スマートではない時計を引っ張り出してきたら電池が切れていた。 ソーラー式なので会場に向かう途中に空に向けていたが、今日は曇りで、バッテリーは復活しなかった。

競技中の様子。

机に向かってひたすらもくもくとキューブを回して解答を書く。 「電子機器の電源は切ってください」から始まるこんな試験らしい試験はいつ振りだろう。 10年ぶりくらいかもしれない。

事前に座席表も配られていて、会場に行ったらそのまま席に座り、時間になったらスクランブル(問題)と解答用紙が配られて解く。 でも、何回も参加していそうな人が「ペーパーテストみたいでうけるw」というようなことをツイートしていたので、同じFMCでも他の大会だと違うのかもしれない。

そういえば、紙に書かれた解答をどうやってジャッジするのかが気になっていた。 40人以上の解答を運営の人だけでチェックするとか無理では? と。 「手の空いている人は前に集まって手伝ってください」だった。

手伝ったのだけど、書かれた解答を回すのに時間が掛かったり、

私「これDNFだと思うのですが……」

他の人「どれ……。いや、ちゃんと完成しますよ」

ということがあったりで、あまり役に立てなかった。

FMCで一番重要なスキルは、手順を正確に素早く回せることだわ。 もちろん、ジャッジの手伝いだけではなく、自分で解くときにも重要。 正確に回せないと、回し方が間違っているのか、書いた手順が間違っているのかが分からなくて、どうしようもなくなる。 キューブを揃えて一通り回して確認するのに1分は掛かる。 60分の制限時間の中での1分は大きい。

自分では使わないから覚えていなかったけど、解答には書かれているので、持ち替え記号も把握しておく必要がある。

反省

詳しくは後述するが、まともに揃えられたのは最後の1回だけ。 とても悔いが残った。

家でリラックスしているときと、大会本番の緊張感の中と、どちらが記録を残せるかは人によるだろう。 東京チャレンジ VIII 2023で分かったが、私は後者である。 とはいえ、「数十秒の速解きではなく、1時間でしょ? 緊張することもないだろう」とコンテストが始まるまでは思っていた。 全然そんなことはなかった。 速解きの10秒とFMCの最後の15分間のテンパり具合は同じ。 焦っていると、キューブを普通に解いて初期状態に戻すことすらできなくなる。 (少なくとも私は)家でやったら10回中10回できる、こんなの当たり前でしょ? というくらいにならないと、本番ではできないな。

これが何とかなったとして、どうやってもっと短い手数で解けるのかというのが気になる。 私は基本的に30手前半くらいで、すごく運が良いと30手を切れる。 トリコンTwitterに上がっている解答を見ると、30手をコンスタントに切れている人がいる。 どんなテクニックがあるんだと。

席が隣だった。 普段は最終的な解答しか表に出てこないので、とても興味深い。 計算用紙の密度がすごい。 私とは桁違いの量を書いている。 まずは、手を速くして試行回数を増やすことか。 ちょっと話を聞いたけど、DRまでではなく、HTRも何個も作っているらしい。 他にも手数を縮める細かいテクニックが色々とあったりするのかもしれないけど。

私の解法

せっかくなので載せておく。

概要はこの一連のツイート。

スクランブル

第1試技

EOが2手で揃う。 これは30手切れるだろ。 幸先が良い。

DRまですんなり進んで、11手3QTのDRが得られた。 私としてはかなり良い。

欲を出してNISSで逆方向からも探し、同じく11手3QTのDRが得られた。

まあ、1個目のほうで良いかなと、HTRに進む。 ん~、エッジが上手いこといかないな。 あれ? そもそもコーナーも揃ってないのでは??? で、QT数の分析が間違っていたことに気が付いた。 本当は4QTだった。

それならもう1個のDRで……と思ったが、書いてある手順を回しても、DRにならない。 書くときにミスったのか、今回したときに間違えたのか。 終了時間が迫ってきて焦る。

この際4QTでも良いだろと最初のほうで4QTのルートを辿り始めるが、焦っていて上手くいかない。

平均の記録を残したいんですよ。 ということで、マジでCFOPを使って解き始めた。 短い手数を目指すから難しいのであって、解くだけなら普通に解けるからね……と思いきや、普通に解けない。 手順を書き留めながら解くのってこんなに難しかったのか。

さよならmean。

どうも指で覚えているところがあったらしく、途中で手を止めると次が分からなくなってしまう。 OLLで2層回しを使うものが出てきてパニくった。 1層回しに直そうとして混乱していたけど、ルール上2層回しは許されているので、2層回しで書けば良かったな。 あと、黄色クロスで解けば良かった。 FMC以外では色で操作を書くことはないので、これも混乱する。 まあ、さすがにFMCをCFOPでそのまま解くときのこの反省が生きることは無いだろう。 無いと思いたい。

第2試技

平均の記録は消えたが、せめて単発の記録は残したい。 ということで、もう色々と試行錯誤は止めて、確実に解こうと心に決めていた。

戻ったりしないで素直に進み、17手2QTのDRが出てきた。 17手かぁ……とは思ったが、2QTだしそこまで悪くはないだろ、解くことが最優先だ、とこれで行くことにした。

コーナーを揃えたらエッジも揃って22手でHTRができた。 DRの17手は完全に帳消し。

HTR以降も良い感じで、31手でM層に3Eのスケルトンができた。 上々。 スライスインサートが上手くいかなくて+2手だが……まあ良いだろ。

で、解答用紙に書いて確認したら揃わない。 ……スライスインサートを間違えていた。 最後のL2以降の手順を付け加えるのを忘れていた。

時間がギリギリだったので、解答用紙のスライスインサートの分を消して、3eのエッジ交換手順を書き足した。 スライスインサートが+0手なら少しは楽だったのに、+2手だったからずれて面倒。 3eの6手の手順も知っているのに、私はなぜ8手の手順を使ったんだろうなぁ……。 自分でも分からん。

1回も通して確認していないので、正しい自信が無くてとても不安。

提出した解答。

F  R  U  D' B  L  U  R' L2 D
L' B2 F2 L2 U  R2 U  R2 F2 R
F2 R' B2 R2 U2 B2 U2 L2 D2 U2
B2 U2 R2 F2 R2 U2 R2 F2 R2

F R U D' B // EO (F/B) (5/5)
L U R' L2 D // DR 2e4c (L/R) (5/10)
L' B2 F2 L2 U R2 U // DR (L/R, 2QT) (7/17)
R2 F2 R F2 R' // HTR (5/22)
B2 R2 U2 B2 U2 L2 // FR (L/R) (6/28)
D2 U2 B2 // 3E (3/31)
U2 R2 F2 R2 U2 R2 F2 R2 // finish (8/39)

出したかった解答。今インサートし直した。

F  R  U  D' B  L  U  R' L2 D
L' B2 F2 L2 U  R2 U  R  L  D2
L  B2 R' F2 R2 D2 F2 D2 R2 D2
U2 B2

F R U D' B // EO (F/B) (5/5)
L U R' L2 D // DR 2e4c (L/R) (5/10)
L' B2 F2 L2 U R2 U // DR (L/R, 2QT) (7/17)
R2 * F2 R * F2 R' // HTR (5/22)
B2 R2 U2 B2 U2 L2 + // FR (L/R) (6/28)
D2 U2 B2 // 3E (3/31)

* = M' // (4-3/32)
+ = M2 // finish (2-2/32)

第3試技

この時点で第2試技の結果は分からない。 第1試技はDNFだと分かっていて、第2試技もDNFの可能性がある。 これで、第3試技もDNFだと、DNF, DNF, DNFで心が折れる。 ホントのホントに解答を提出することを最優先するぞと思っていた。

いやぁ、でも、さすがに15手5QTは無いだろ。 うーん、15手4QT。 17手3QT……。 いや、解き切ることが最優先だと、17手3QTを選択して先に進む。

HTRはそこそこ、HTRより後は悪くない。 スライスインサートもすんなり+0手。

今度は計算用紙に一通り手順を書いて確認する余裕があった。 指さし確認しながら解答用紙に転記して、もう一度確認……が揃わず。 計算用紙の右上の部分が解答で、これの右端の B2 R2 のあたりにスクランブル用紙が重なり、見落としていた。

残り1分で何とか修正。 キューブを回して確認する時間が無かったので、とても不安。 「終了です。ペンとキューブを置いてください」から、解答用紙を回収に来るまでの間に、見ていたら、あれ……? まだなんか抜けている……? と焦ったが、抜けていなかったらしい。 記録を残せて良かった。 結果が出るまで、DNF×3を覚悟していた。

U  D' R  D' F2 B2 R' U2 L' B
R2 B  U2 L' D2 L  B2 U2 F2 U2
L' U2 R2 U2 B2 R2 U2 B2 U2 B'
F' R' L'

U D' R D // EO (U/D) (4/4)
(L R F B) // DR 2e4c (L/R) (4/8)
D2 F2 B2 R' U2 L' B R2 B // DR (L/R, 3QT) (9-1/16)
U2 R' * B2 R + B2 U2 F2 U2 L // HTR (9/25)
L2 U2 R2 U2 B2 R2 // FR (6-1/30)
U2 B2 U2 // 3E (3/33)

* = M // (2-2/33)
+ = M' // finish (2-2/33)

まとめ

今改めて振り返ってみると、探索はほとんどしていないな。 これで30手前半の解を出せるDR → HTRは優秀。 あと、FR(Floppy Reduction)も重要。 今までは、短いfinishまでの手順がどうしても見つからなかったときに使うステップという認識だった。 焦っているときにシステマティックに処理できるのは本当に強い。